こんにちは、インディ(@aiirodenim)です。
アメリカのリーバイスが、34年ぶりに上場するそうですね。
これに関して、私自身思う事があり、ちょっと皆さんにも考えて頂きたいなぁ、と。
さて。
「今のリーバイスの作る商品はダメ」論を語る方は少なくありません。
それは、世間一般のアパレルブランドとして、ではなく…ちょっと特異な「ヴィンテージデニムファン」の視点からの評価であり、
「古き良きモノづくりを忘れ、効率を重視した」今のリーバイスの商品単体で見ると、ヴィンテージとの比較からすれば確かにそうだと私も思います。
しかし…そもそも今のようなモノづくりの状況にしてしまった原因ってどこにあるのか?
答えは…「私たち」自身では無いか、と思うのです。
そして結論から言えば、今のリーバイスも、ある意味で素晴らしい「職人」です。
そんな事を想う、今日この頃。
私の過去の経験も交えて、本日はお話したいと思います。
目次
大手企業でのモノづくりはハンデの塊
ここでは私の前職時代の話をさせてください。
以前、某メーカーに勤務していた時の話です。
カテゴリーで言えばエンタメ系(?)になりますが、その市場では圧倒的なシェアを誇り、TVCMも毎日バンバン。子供から大人まで、日本人で手にしたことが無い人はまずいないだろう、そんなメーカーで営業を担当していました。
そんな私たちメーカーの商品が市場シェアを緩やかに落としていく時期がありました。
他社、特に小規模のメーカーが少しずつ、店頭のシェアを侵食しだしたのです。
業界で圧倒的シェアを誇る我々からすれば、パワープレイの営業力を使いそのような小規模メーカーの商品を店頭から駆逐することなんて簡単…なはずでした。
しかし、結局それはできず。
なぜか?
消費者=お客様が、その小規模メーカーの商品を好んで選ぶようになったからです。
なぜか?
小規模メーカーの方が「面白い商品」で、価格が「安い」からです。
生活“不”必需品であるエンタメ系市場において、「安くて面白い」っていうのは理想形。
「じゃあ、私が在籍しているような大手メーカーが、同じように安くて面白いものを作れば良いのでは無いか?」
と普通なら考えるでしょう。
出来て当たり前だ、と。
それをやらないのは、大手メーカーの怠慢だ、と。
しかし…これが簡単にできないのです。
理由は若干複雑なのですが、過度な「環境配慮」、過度な「安全性配慮」、過度な「倫理規程」、そして日々厳しさを増す「コンプライアンス(法令遵守)」が根底にあります。
大きな会社は必要以上のコストがかかり、表現の制限もある
大手、特に上場企業には、株主に対する利益還元というミッションに加え、社会的な責任が付きまといます。
商品が原因の事故だったり、商品になる前だって工場の排水が環境破壊を引き落としているなどがニュースになれば社会的な信用・信頼を落とし、株価を大きく下げる要因になります。
大きな企業であればあるほど、何か問題があった時に関連企業や下請け会社、工場などにも影響が広がるため、その責任の大きさは尋常ではありません。
よって、大企業はただ商品を作るだけではなく、信用を落とす原因・クレームの要因となり得る可能性を最大限排除する必要があります。
全国に膨大な商品を流通させるために品質の安定性が重要であり、不良品が出ることは許されません。
何より、購入者が商品で怪我したとか、そういう事故などもってのほか。
作りたいもの・表現したいデザインよりも、安全性を重視する必要があります。
例を挙げるなら…
角ばったデザインがカッコ良い箱をデザインしたとして、「角で購入者が怪我する可能性がある」と判断された場合は、角を丸っこくしたり、角に柔らかいパーツを付けるなど、そもそものデザインコンセプトを変更しなければならないのです。
そんな、過度に思えるほどの「安全性配慮」が必要になります。
そんなので怪我するやつ、いないよ! 自己責任だよ!
…っていうのは、今は通じない時代です。
全国に一人でも、箱の角で怪我をする可能性があるのであれば、それは商品化にあたり配慮する事が大企業メーカーには課せられています。
いわゆる「業界で決められている安全基準」というもの以上のものを、大手メーカーは強いられているのが現状です。
さらには過保護なまでの「安心安全な素材」を使い、多くの人や設備を使って安全性をチェック、出荷前に不良の有無をチェックする工程がモノづくりの中に必要になります。
この工程に、膨大な人・モノ・カネがかかります。
また、TVCMを毎日行うようなメーカーです。よって、商品に絶対に使ってはいけない言葉や表現があります。
以下は一例ですけど。
エンタメですから、子供を喜ばそうと思うと、手っ取り早く「うんち」「ち○こ」とか、こういう表現を使えば「面白い!」となって売れるんです(これマジ)。
でも私のいた大手メーカーでは、これはNG。
多くの子供がゲラゲラ喜ぶことが分かっていても、人を少しでも不快にさせる可能性があるのであれば商品化は出来ません。
一方で、小規模メーカーは、そんなコンプラ関係なし。
業界で求められる最低限の安全基準さえ満たせば、「面白ければいいので、なんでも自由に作れ」ちゃう。商品の表現の自由が、彼らにはある。
私がいた大企業のように、必要以上の商品検査も不要。
素材も有害でなければ問題なし。
つまり、製造原価が全然違う。
これはつまり、同じものを作っても、店頭価格も全然違う。
作りたいプロダクトの表現に制限があり、また価格のハンデも背負った状態で、市場で評価されるものを作るというミッション。
これが大手メーカーに課せられています。
そして、このハンデは緩くなることはなく、どんどん厳しい時代の流れになっています。
ナンデ??
消費者が何事に対しても今以上の安全性を要求し、ちょっとした問題に対してクレーマー気質になっているからです。
それをメディア自体も楽しむかのように煽っているからです。
これはあくまでも私のいた業界の話でしたが、
「大きな制約が無く、純粋に昔のジーンズの再現を進めるレプリカメーカー」と、「社会的責任の大きいアパレル界の巨人、リーバイス」にも置き換えられる話だと思いませんか?
リーバイスは巨大アパレル企業である、それゆえのジレンマ。
アメリカの、いや世界の文化の歴史の一部を作ってきたと言っても過言では無い、リーバイス。
ジーンズのオリジンゆえに、今では世界で知らない人の方が少ない、そんなブランド。
それゆえに世界に膨大な流通網があります。
それは大手メーカーの強みですが、逆にちょっとした信用問題が世界中の売り上げに影響する可能性を秘めています。
今回のように、アメリカで再び上場することになれば、尚更。
倫理規程、安全性配慮、環境配慮、コンプライアンス…我々の想像を絶する大きな「責任」を背負って、企業活動を強いられているはずです。
一方で、我々アメカジ好きの間の風潮としては、ウエアハウスなどのレプリカ系ジャパンメーカーが当時のモノづくりを追求し、古い機械を再生し、当時の生産方法を世に蘇らせた「素晴らしいブランド」と認識。
で、そういうブランドとリーバイスを比較すると、
「今のリーバイスのモノづくりはダメだ」
「生産効率重視で、魂がないものばかり」
「色落ちも良くない」
と、そういうお話をしがちですが…
ここまで読んでいただければお分りの通り、当時のモノづくりの再現、イコール…
・色が落ちる不良品
・縫製にムラがある不良品
・洗うと極度に縮む不良品
・現代の安全基準を満たしていない機械を使い従業員を危険な目に合わせる企業
と、なる訳です。
これだけ広く流通しているブランドです。
あまり知識がない方の購入もありえる中、「このリーバイス、織り傷がある!縫製が下手くそ!色が落ちてきた!」とかクレームあげて返品とかされたら、その返品・交換対応にどれだけ店舗に手間とコストがかかるか。
リーバイス・ジャパンも、日本では東証に上場している、一流企業です。
この規模になると、ただ利益を上げて株主に還元すると言うだけでなく、社会的な責任や貢献といったものも必要になります。
生産現場の環境・安全性、廃棄物などの環境への配慮。
じゃあ、そう言う背景って誰が作ったのか?
誰でも無い…私たちです。
過度の安全性の要求と不良品へのクレーム。
揚げ足をとるような表現に対する過度なクレーム。
成功者や大物がミスするのを心のどこかで喜び、揚げ足取りに躍起になる、そんな「私たち」。
いや、アメカジ好きな人はそういう点に理解がある方々ばかりなのですが、社会一般的に見ると、そうでは無い人が多い訳です。
企業がそんな様々なリスクを避けるために、過度な倫理規程、安全性配慮、環境配慮、コンプライアンスを強いられるようになったのは言うまでもありません。
今のリーバイスもまた、職人である。
岡山を中心に、世界で評価されるジャパンデニムブランドは、昔のヴィンテージのデニムを極限まで再現することに成功しています。
本当に素晴らしい企業努力です。
しかし、「企業努力」をリーバイスがしていないか、というと、そうでは無いのです。
社会的な責任を全うしながら、良い商品を企画する、という企業努力は当然、行なっているはずです。
それが今日、一番言いたかったこと。
リーバイスが良い色落ちのデニム生地を作れないのに対して不満・文句を言っても、無理。
日本のレプリカ系デニムブランドは、いくら有名と言っても、リーバイスとは企業としての規模も格も責任も、全くレベルが違いますから…。
単純な比較なんて、できません。
我々はリーバイスにダメ出しをすること自体がナンセンスであり、そうさせているのは、何を隠そう、私たち消費者自身なのですから。
むしろ、そのような厳しいコンプライアンスを遵守しながら、LVCのようなプロダクトを作っている企業努力。
そういう意味で、彼らリーバイスもまた、素晴らしい職人であると私は思うのです。
大きなハンデを背負った中で、あのLVCを作り出す、職人魂。
決して悪く無いでしょう?
今のリーバイスって、ダメだーっていう人に、ちょっとだけ考えてみて頂きたい、そんなお話でした。
小規模ブランドの方が面白くなる原理
とはいえ、今後はますます大企業って、動きにくくなると思います。
だって、消費者の大手企業に対する要求は益々強まる傾向があるので。
それ故に、米国リーバイスが再上場するって今回の方針は、私はすごく否定的。クリエイティブな活動は今後更に難しくなるでしょう。
こういう事情があるからこそ、今後はより自由に動ける小規模な企業・メーカー・ブランドの方が面白かったりするんです。
この傾向は今後加速してくると思います。
このブログで提唱している「サードウェーブジーンズ」のように、「個」でモノづくりをするっていうのが、その典型的な例になるでしょうね。
これはアパレルだけの話では無いのですが。
最近はインスタもマメに更新中なので、宜しければフォローください↓
本日もご一読、ありがとうございました。
またコメント失礼します。企業規模の背景を読み取りレポートするアメカジブログなんてインディさんしかいないのでは。流石です。
私も全国に支店を持つ東証一部上場企業に勤めていた頃は各方面、様々な事に気を配り窮屈な思いをしていたのを思い出しました。
安定させながら挑戦することの難しさを実感しながらも、そういう気概で働いていきたいです。
話はアメカジに戻して、ウエアハウスといいフルカウントといい最近の動きの激しさはどういうことか申し合わせたかのように動いてますね。
またレポートお願いします❗
>ヒデさん
メッセージ、ありがとうございます。
ヒデさんの業界でも、そうですか。。。大手は大手の大変さって、ありますよね…。
その大変さはなかなか世間には伝わらないのですが、それを人知れず毎日やりこなす社員の皆さんって、やはりプロフェッショナルなのだとつくづく思います。
さて、アパレル、特にアメカジ業界は長らく不振が続いているようで、そんな中でフルカウントの今回の大きな変更は、私は非常に好意的に受け止めています。相当に海外(特に中国)展開を意識しているのでは無いでしょうか?それはある意味、今の苦難の時代を生き残ってやろうという覚悟であろうと思うんですよね。
一方で変化なく、代わり映えしないコレクションをリリースするだけのブランドは、将来厳しいかも知れません。
また是非、メッセージいただけると幸いです。