こんにちは、インディです。
オリジナルの革パッチ、再制作しました。
本日はその経緯に加え、学ばせて頂いた革パッチを作る技術的なお話までしてみようと思います。
目次
オリジナルの革パッチを作る(再び)
再び作ることにした経緯
もともと革パッチに落とし込みたかったデザインは、これでした。 ↓↓↓

このデザインは何? って方は先日の記事をご参照ください。
オリジナルジーンズのプロジェクトをスタートし、
初めてオリジナルの革パッチを制作する場面で・・・、
お恥ずかしながら、私はパッチの製造方法に関する知識が全くありませんでした。
そんな中で、上記のデザインのデータを工場に納品したところ、
「デザイン同士の間に1mm以上の幅が必要(細かい線などが再現できない)」という工場側の指摘を受けたのです。

根拠なく、簡単に作れると考えていたので、デザインの制約があることには驚きましたが、
その時はなぜ出来ないのか? 実現するには何が必要なのか? というところまで追求せず、
ただ言われるがまま、デザインをデフォルメし、デザイン幅は1mm以上持たせ、データを納品。
希望していた「鹿革」を使って生産したのでした。
実にもう、1年以上も前の話です。

こんな感じ。
デザインは大きく妥協(修正)したわけですが・・・

この時に選んだ革の素材感が良く、実際に形になったオリジナルの革パッチを目の前に、ただ感動。
パッチはこれで進める予定でいたのです、が。
しかし・・・
ジーンズの他のパーツ、特にシルバー925のボタンやデニム生地の選定、
縫製糸や縫製ディテールを夢中になって深掘りし、突き詰めていくうちに、
「ジーンズの質は高まっているのに、一つだけ妥協してしまったものがある。」
という心の引っかかりが日々大きくなってしまって。
それが「革パッチ」だったわけです。
そもそもですよ・・・、いろいろなブランド・モデルの革パッチを見ていくと、
デザイン幅が1mm以下で、細かいデザインも忠実に刻印で再現できるものを見かけることができます
(特にジョー・マッコイや、ヴァニシングウエスト、FOBなど)。
これが一番、腑に落ちないこと・・・。
素材の選び方なのか? それとも工場側の技術の問題なのか?
そこで、改めて勉強し直して、可能であれば改善版を作りたい、ということで
革パッチの生産メーカーさんを改めて探す作業に入ったのです。
これが半年くらい前の事。
どんな革パッチを作りたいか?

そこで、ご相談させていただいたのが、株式会社協同の安田部長。
大手メーカーさんの革パッチを数々手が、多くのノウハウを持つ副資材の生産メーカーさんです。
こちらで改めて、革パッチの生産に関するイロハを教えていただくことにしました。
どんな革パッチを作りたいか?という希望がはっきりしていれば分かりやすいのですが、
重要な点は主に3つ。
①素材は何にするか?(決めている素材はあるか?)
②どんなデザインにするか?(線が細かいイラストか、またはロゴ中心のシンプルなものか?)
③デザインを型押しするか、しないか?(どの深さまで型押しするか?)
これにより、プロセスが変わってくるとのことです。
革パッチで出来ること、出来ないこと
私が作りたい革パッチをまとめると、
①「柔らかく厚みのある鹿革」を使い、②「細かいデザイン」を③「型押しで再現」する、
というものでした。
しかし、安田部長のお話をお伺いすると、
ディアスキンやシボのある革のように柔らかく、表面に凹凸が見られるような革は
細かい型押しを再現するには素材の特性上、不向き。
シンプルなデザインのものであれば型押しができるようでしたが、細かいデザインの型押しは無理。
つまり、①②③を同時に満たすことは技術上、不可能ということがわかりました。
私の希望のうちの一つを変更する必要があるのです。
革の素材を固めの牛革にするか、
デザインをシンプルなものにするか、
型押しではなく、プリントにするか・・・
検討を重ねた結果、
デザインは妥協せず、凹凸の表情豊かな彫りの深い革パッチを作ることを優先し、
革の素材を鹿革ではなく、硬さのある牛革に変更することで解決することにしました。
革を吟味する(再び)

牛革といっても、様々な種類があります。
協同さんのオフィスの革サンプルを眺めていると、選ぶのに1日中時間が掛かりそうな予感・・・。
しかし、ここは経験豊富な協同の安田部長。
数多くある牛革パッチのサンプルの中から、私の希望を察知し、
表面の表情や手触りが鹿革に近く、しかし型が入りやすいハリのある革をすぐにピックアップしていただけました。
それが写真の種類の牛革。
表面はハリがありながらも、繊細な凹凸が入っており、
柔らかな質感を持つ厚みの牛革です。
これならギリギリ、型押し大丈夫でしょう、ということで、
この中から明るめの茶色の革をピックアップし、革選びは完了。 めでたし。
で、素材は選ぶことができましたが、次に大切なのはデザインを型押しで入れるための
「版」の作り方とクオリティです。
革パッチ制作で最も重要なのは「版の作り方」
革パッチにデザイン(リーバイスでいうところのツーホースマークなど)を入れる場合、
版(版画のようなヤツね)が必要になります。
その版で、朱赤などのフィルムを革にぐぐっと押し付けると、
そのフィルムの色が型の形に貼り付いて凹凸も表現される、というのがパッチの大雑把な制作方法。
で、この版にも大まかに2つの種類があります。
一つは腐食版というもの。
もう一つは彫刻版というもの。
この2つは製作方法、彫り込みの深さ、製作費用が違います。
腐食版と彫刻版の違い
<腐食版とは?>
金属の板に凸を残したい部分に、溶けないインクで印刷。その後、薬品で不要部分を溶かして作る版になります。
この方法は納品したデータの再現性が比較的高く、また型代の制作費用も安い方に入りますが、
溶かすという制作工程上、凸の出方が浅くなり、若干デザインのエッジがぼやけます。
そして深い型押しが出来ず、鹿革などの柔らかい素材への型押しが不向きな版になります。
箔押しでも不良が出やすく、比較的焼き押しのパッチに向いている版になります。
<彫刻版とは?>
これは、名前の通り「彫刻」で作る版になります。
納品したデータのアウトラインデータを見て、自動制御のドリルの刃で金属版を削って作られます。
ドリルなので深い凹凸のある版が作れる利点があり、柔らかい革にも凹凸の激しい、はっきり美しい版押しが可能です。
しかし、生産工程の都合上、ドリルの刃より小さい所は刃が入らず削れないため、デザインの間が1 mm以上の幅が必要になることが多いです。
そして何より、この版の方が制作費が高くなります。
もっともっとコストをかければ、1mm以下の幅の繊細なデザインの彫刻版を作ることも出来るようです。
つまり、細かいデザインを出すなら腐食版、深い版を作りたいなら彫刻版。
それぞれ一長一短があり、悩ましい。
さらっと限定版とか小ロットで作るんだったら、前者。
メーカーさんが開発費をかけて、定番として長く使う版を作るなら、後者。
そんな感じのイメージかなぁ。。。
自動彫刻の技術は近年、高くなってきているので
数年後にはもっと安く、彫刻版を作れる可能性はあると思いますけど。
ハイブリッドな制作方法でコストを抑える
私はメーカーでは無いので大量のジーンズを販売するわけでもなく、
また定番として同じ革パッチを長く作り続ける事もありません。
理想は彫刻版で細かいデザインを再現させたいですが、革パッチの版に大きな予算を割くことはできません。。。
「細かいデザインを、深く型押ししたいけど、コストは抑えたい。。。」
そんなわがままな要望に対して、
「細かいデザインを、再現できない箇所も出てくるけど、そこそこ深く型押しできる方法」として
協同さんが提案してくれたのが、版のハイブリッド製作法。
1段回目は腐食で1mm溶かして作り、
2段階目を削り出して2mmまで深さをだす戦法です。
比較的安い制作費で開発が可能というメリットがあります。
しかし、この方法は出来上がりの想像が難しいのがデメリット。
工場さんも「やって見ないと、実際どうなるか分からないよ」との事。
若干博打的要素も出てきますが、
おそらくメーカーさんは不良品を恐れて出来ない事だと思うし、
面白そうなので、その方法でお願いすることにしました。
出来る限りデザインを調整をして仕上げる
ハイブリッドで版を作るにしても、
やはりデザインは出来るだけシンプルな方が版が作りやすい、ということで、
元々のデザインに手直しを加えていきます。
仕事終わりしか時間が取れない都合上、、、1週間ぐらい時間がかかりましたが、
最終的に修正デザインを完成。

データを納品し、GOする前に、
「できるだけのことはやるけど、デザイン潰れるところも出てくる可能性があるけど、GO?」
の最終確認が。 同意し、進めてもらいました。
そうして出来たのが、こちらです。
革パッチ完成品

・・・
想像以上のクオリティで出来た。
プロの仕事に、ただ驚くばかり。
株式会社協同さん、安田部長、ご尽力、ありがとうございました。
この革パッチの完成版の詳細に関しては、次回
【オリジナルの革パッチを製作し直した話②】に続けていきます。
本日もご一読、ありがとうございました。
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