こんにちは、インディ(@aiirodenim)です。
数々のヴィンテージのアイテムの中でもリーバイスの大戦モデルというと、売買価格100万円台の一品も珍しくありません。
希少価値だけでなく、その世界大戦当時という特殊な時代背景が想像できるディテールの数々が、多くのヴィンテージファンを惹きつけています。
そんな特殊な大戦ディテールを持つワークウェアは当時のリーバイスに限らず、その他のストアブランドのワークアイテム、特にカバーオールでも同様のディテールが見られます。
ディテールというよりも、、、そこにあるのは引き算の美学とでも言いましょうか。
厳しい物資統制の中、一切の無駄を廃した潔さが、リーバイスのジーンズやジャケット以上にストアブランド各社のカバーオールには見て取れるのです。
本日は、私物のヴィンテージ・カバーオール“大戦モデル”のディテールを見ていきたいと思います。
目次
ストアブランド(恐らくBLUE BELL)のカバーオール・大戦モデル
外観
本日お見せするのが、こちら。
ストアブランド(恐らくBLUE BELL社)のカバーオール(大戦モデル)です。
カバーオールと聞いて思い浮かぶ姿とは随分とかけ離れた、実にシンプルな一着だと思います。
タグが欠損しているため非常に判断が難しいのですが、様々なディテールから判断すると、1940年代初頭のBLUE BELL社のものと思われます。
これはBLUE BELL社のものに限らず、大戦期のストアブランド各社のカバーオール には数々の変わった仕様が見られます。
リーバイスのジーンズのように、ある日から急に大戦っぽい仕様になるのではなく、
ストアブランドのカバーオールに関しては「ある日から、フロントボタンが1つ減って4つになった」「ある日からポケットが1つ減った」「ある日からボタンがドーナツボタンに変わった」など、
生産時期ごとに、徐々にディテールが簡素化していく様子が見られ、
結果として同じブランドでも多種多様なスペックのカバーオールがこの時期存在します。
そして、最終的な大戦時期のカバーオールのスペックは、各社ともに以下のディテールに簡素化されて行きます。
・ボタンは既製品で(月桂樹ドーナツボタンなど)
・ポケットは2つまで(胸の多機能ポケットなどは排除)
・袖口のカフスのボタンは1つまで(通常は2つ〜3つ)
・ダブルステッチまで(この頃のワークはトリプルステッチが多い)
そして、今日ご紹介する個体は、まさにその「大戦のど真ん中」に作られた一着で、これらの大戦時特有のスペックが全て反映されているものになります。
では、ディテールを見ていきましょう。
ディテール
この個体のボタンは全て鉄製の月桂樹ドーナツボタンが採用されています。
これは5スター。フロントは4つボタン。
錆びて変色しています。
カフスが1つボタン。
そして、色々なところがダブルステッチ。
大戦期ど真ん中のカバーオールの大きな特徴です。
この個体は「カンヌキが赤」というディテールを持っています。
これに加え、全体を見たときにセットインスリーブ、台襟つきの襟の形状、ポケットの形により、ほぼBLUE BELL社のものであることが確定です。
また、この個体はどのカンヌキも色が大きく抜けてピンク色〜白になっています。
このことから、恐らくBLUE BELLが戦時中の物資統制の影響で赤色の糸が調達できず、白の糸を赤色に後染めした糸を使ってカンヌキを縫製した結果だと想像しています。
ここまでが大戦時特有のカバーオールの特徴的ディテールです。
これ以外は各社の特徴が見られるルックスが維持されることになりますが、この個体はというと。
まず、襟は台襟のついた小ぶりな襟です。
カバーオールには大きく、このようなスタンダードカラー(台襟のついた襟)と、オープンカラー(襟が左右に広がったタイプ、例えばLee )の2種類があります。
私のこの好みは前者であり、ワークがベースながら、スタイリッシュな雰囲気をもちます。
バックスタイルです。
カバーオール には、この背中が1枚生地になっているものと、2枚生地をセンターで縫い合わせたものがありますが、
私は後者が好みです。
そしてカバーオールの袖の付け方には各社違いますが主に2種類あり、ラグランスリーブとセットインスリーブがあります。
この個体はセットインスリーブです。
カバーオールで言えば、Leeのようなラグランの袖の方が有名かもしれませんね。
ラグランは多くの方の体型にフィットできる特徴がありますので、当時のアメリカで幅広い年齢層・体型の方に着用されるワークウェアという点を考えると非常に理にかなった袖の付け方です。
ただ、ファッションとして見るとワークテイストが強すぎるのと、少々子供っぽく見えがちなのが難点。
このようなセットインタイプだと、肩幅の合ったサイズをチョイスすることで、今の時代でもスタイリッシュに着崩すことができるので、使いやすかったりします。
この個体はダブルステッチで2枚生地を縫い合わせされています。
1枚生地だと、バックスタイルがぼやけガチなので、私の好みはこのタイプです。
おそらく8ozのデニム生地。
ライトオンスながら、色落ちが美しくて、惚れ惚れします。
アタリのつき方と良い、ライトオンスながら細かい凹凸の出る独特の生地感であったり…当時の生地は、なぜか面白いですよね。
ボタンホール。
ボタン裏のリベット。
台襟のチェーンステッチ。このステッチ色も、おそらく当時は黒〜濃紺だったと思います。
それが退色して、こんなグレーのように見えています。
かなり堅牢度(洗濯に対する染色の耐性)が低い糸が使われている印象です。
ここまで激しく色が落ちるということにも、大戦期の混乱や物資規制が見てとれるかな、と思います。
ウンチク1>限りなく同じモデルが陸軍・海軍の制服として採用されている
この個体のカバーオール ですが、私も一瞬迷ったのですが、1941年にUS.ArmyとUS.Navyが共同で企画をしたDungaree Jumper Type2 (ダンガリージャンパー タイプ2)と呼ばれるものと、ほとんど同じルックスだったりします…。
限りなく一緒なのですが、Dungaree Jumper Type2の方は袖のカフスがシングルステッチなので、この個体はそれでは無いことは明らかです。
ただ、それ以外はほとんど当時の軍の制服のそれと一緒です。
それにこれはカンヌキが赤なので、軍納入のものではないと判断。
なぜ軍に納入されたその制服とBLUE BELLのカバーオールの大戦モデルのルックス・ディテールが限りなく近いのか、不明。
このあたりの違いが分からず、市場で混在して流通している個体も少なく無いかもしれません。
ちなみに、Dungaree Jumper “Type1” はUS.Navyのショールカラーのこちらのことを指します。
この写真はウエアハウスのこの春夏にリリースされたレプリカモデルです。
アメカジ界隈ではデッキジャケットと呼ばれたりしてますが、大戦当時のUS.NAVYの制服の納入資料によると、このようにDungaree Jumper(ダンガリージャンパー)Type1というのが正式名称だったりするので、なんだかややこしいですね。
ウンチク2>呼び名が多く、そろそろ上手いこと共通の名称を作ってほしい
もう一つ、ウンチクをお話しすると、この形状のアウターを「カバーオール」と呼ぶのは日本独自であり、英語圏では
・チョアコート(chore coat)
・レイルロードジャケット(railroad jacket)
・エンジニアコート(英: engineer coat)
・バーンコート(英: barn coat)
など、様々な呼び名があります。
海外で「カバーオール」と言えばオール(全て)をカバーする(覆う)ということで、日本では「オーバーオール」と呼ばれるものになります。
混乱必死。
さらに、US.ArmyとUS.Nabyの制服として、ほぼ同じ見た目のダンガリージャンパー(Dungaree Jumper)という呼び名がある訳ですから、何がなんだか…。
【まとめ】ワークの大戦はファッションアイテムとしても魅力的。そしてまだ相場が手頃で、手が出しやすい。
以上、私物のカバーオール 大戦モデル(BLUE BELL)のレビューでした。
このように、物資統制によってこの研ぎ澄まされたカバーオールは、そのスペックにある背景のストーリーも楽しめますが、
純粋にファッション・プロダクトとして魅力を感じます。
ガチなカバーオールと違い、ジャケットとして使いやすく、様々なスタイルに対して非常に着回しのきくスペックで、私の大好物。
現在、アイイロデニムワークスでこのカバーオール大戦をベースに新しい一着を企画しはじめている理由は、そんな大戦期の魅力的なカバーオールのスペックを、多くの方に知っていただければな、と思いまして。
ちなみに、貴重な大戦モデルとは言え、今この手のストアブランドの大戦カバーオールなら3〜5万円相場で見つけることが可能(個体の程度による)です。
今、ヴィンテージ・ワークがすっごく面白い!
興味があれば、皆さんもヴィンテージショップをちらっとのぞいてみてはいかがでしょうか?
本日もご一読、ありがとうございました。
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